二男のはなし

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繊細で傷つきやすい男の子

二男は、小さい頃から繊細で傷つきやすい男の子でした。保育園の頃、年長の子どもに、色白で髪の色が茶色いのをからかわれたことがありましたが、烈火の如く怒り、そのまま何時間も口を聞きませんでした。一旦決めるとテコでも動かない頑固なところもありました。言葉で伝える事が苦手で、ひとりで胸に抱え込んでしまう子でした。
巨人にいた松井秀喜が好きで、よくモノマネをしました。それが細部の動きや視線まで捉えていて、オムツがとれていない子とは思えない位上手でした。
運動神経が良く、いつも2歳上の兄の友達に混じって遊んでいました。

マルコが生まれたのは二男が5歳の時でした。それまでは末っ子として可愛がられてきたのに、突然妹ができることで不安定になるのではと心配しましたが、他に兄弟がいるせいか、性別が違うからなのか、マルコのことを、親の愛情を奪うライバルとして見るようなことはありませんでした。むしろ、初めてできた愛情を注ぐ存在が愛おしくて仕方がない様子でした。

学級崩壊で不安定な環境

二男が3年生の時、隣のクラスが学級崩壊し、一年間で担任が3回変わりました。二男のクラスでも悪質ないじめがあり、何度も保護者会が開かれました。中には強い口調で学校や先生の対応を非難する親もいて、学校と保護者の信頼関係が崩れそうな不安定な状態でした。私は、二男がいじめる側や、いじめられる側になっていないか、普段以上に目を配るようにしました。

担任の先生からの厳しい言葉

小学校4年生の時、家庭訪問に来た担任の先生に『チャンタ君をしっかり見てあげてください。』と言われました。意外な言葉に、一瞬耳を疑いました。私は、自分では人一倍子どもと関わっているつもりでしたし、どの子にも分け隔てなく、愛情を注いでいるつもりでした。近所の人からも、両親からも、『若いのに子育て頑張っているわね』と褒められることはあっても、やり方を注意されたことはありませんでした。本当に心外でした。

『学校での行動になにか問題がありましたか。』と聞くと、先生は『チャンタ君は、授業中に筆箱をカタカタ鳴らしたり、椅子をガタつかせたり問題行動をがあります。表情がとても不安そうです。私も3人の子どもを育てましたが、真ん中の子には、教えているようで教えていないことがたくさんあるものです。上の子や下の子に関わる時、ついでに済ませたつもりになってしますんですね。今思えば、いつも不安で仕方がなかったと思います。お母さん、今が大事です。しっかりチャンタ君を見てあげてくださいね。』と言われました。

正直言うと、話を聞いた後も、私は素直に先生の言葉を受け入れることができませんでした。家での二男は、私の言うことを良く聞く素直な子で、妹の世話も嫌がらずにやってくれていたからです。『わかりました。』と言いつつも、不満が残った家庭訪問でした。

ありのままの姿を見るということ

あれから10数年、あの時の担任の先生の言葉を思い出し、あの言葉がなかったら今頃二男はどうなっていたかと思います。先生には感謝の気持ちで一杯です。納得がいかないながらも、言われた通りに注目してみたら、二男はたくさんの問題を抱え込んでいたことがわかりました。『できない。』『知らない。』ということができず、問題にぶつかると、誤魔化したり、逃げたりすることがありました。自分の欲求を抑えることが苦手で、今が良ければいいという安直な考えで、無責任な行動をとることがありました。気持ちの優しい子で、自分の意見を強く主張することができず、対人面でストレスを溜め込んでいました。そんな自分を好きになれず、孤独感に苦しんでいました。今までずっと、二男に寂しい思いをさせていたことに、やっと気がつきました。二男のありのままの姿を受け入れたい、心の声を聞きたいと思いました。その時から二男は私にとっての一番になりました。それまでは、どの子も一番でしたが、これからは二男を一番にすると決めました。

障害者の兄弟であること

小学校6年生の夏休み、二男は『五体不満足/乙武洋匡著』の読書感想文を書きました。感想文の内容は覚えていませんが、その時に二男が伝えてくれた言葉は今でも忘れられません。『お母さん、ごめんなさい。僕はマルコのことをずっと恥ずかしいと思っていました。乙武さんのお母さんは、恥ずかしいなんて思わなかったのに。マルコのことを恥ずかしいと思ってごめんなさい。」と涙を流していました。とても清らかで優しくて、温かくて、本当に素直なチャンタをもっともっと好きになりました。

小学校、中学校、高校、大学と進む中で、二男は様々な経験を通し、自分と向き合い、少しずつ成長しました。持ち前の繊細さは、気配り上手という長所になりました。運動神経の良さを活かし、スポーツを続けたことで、チームワークや努力することの喜びを知りました。優しい性格のせいか、女の子に好かれることが多く、口下手だった幼少期が噓のようによくしゃべるようになりました。コミュニケーションに自信がつき、明るくなりました。

失った時間は戻りません。幼児期に作れなかった基盤を作るには長い時間がかかります。でも、先生に指摘された時、すぐに行動できて良かったと思いiます。今の二男は10数年前の自信のない不安な顔ではありません。前向きに、自分の人生を生きようとする輝く青年の顔をしています。今でも、二男は私の一番です。